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なんだか蒸し暑い、そう思って私は目を開けた。閉じていた目を開いた瞬間、私は周りの風変わりした景色に驚愕した。そして驚きのあまり声を失い、唖然とした表情で周りにそびえ立つ何かを見上げ息を飲む。
額から出る汗は頬をつたい、そして首筋を通りやがて着している衣服に染み付く。水分が皮膚の表面をゆっくりと降りていくその嫌な感覚により私はようやく、あっ、と声を漏らした。
私は森にいた。なぜか自分は眠っていて気が付けばいつの間にか森にいた。理由などしらない、知っていれば恐らく私はこれ程までに驚いてはいないだろう。
周りの風景はそれはそれは異質極まりないものであった。森、文字からしても意味からしてもその言葉には必ず木という存在が表されている。私が異質と豪語しているのは、つまりその木のことなのだ。
どこがどう変であり普通と違いそれを異質と言っているのか、とこの状況で聞かれた場合私は即答し全てがおかしいと宣言する。なぜなら常識的な木の地面から伸びる直径の長さなんてものは十数メートル前後、しかし私の目の前にそびえ立つ木というのはその常識を遥かに超越した非現実的な巨大さであるからだ。例えるならば十階建てのマンション並みの高さ。それが何十本、いや何百本と連なっているのだ。声を失い唖然としていたそのリアクションこそ今の現状に立ち会った瞬間の理想的な正解像なのだ。
これは夢だろう、私はこの不自然な場を目の当たりにしそう確信した。夢を見ている際、時折これが夢だと認識できる時があるというのをどこかで聞いたことがある。その場合、意識的に体を使う動作や考え事も可能らしい。つまり今の私の状況は、そういう明晰夢のようなものであるのだ。私はそう根拠のない確信を得ていた。
しかしその数秒後、そいつが出てきたおかげで私の思考は急激に変化を遂げる。これは夢だ、それが正答であるのを前提に思考回路を巡らせていた私の頭はぐるりと方向を変え、夢であってほしい、夢であれ、と自分の予測が当たっているのを望み願う方向に動き始めてしまっていた。
私の目の前には、カマキリがいた――。
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