ほら、やっぱりおいしかった

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沸かし始めてすぐに、無機質で、だがしかし軽快なインターホンの音が家中に響いた。 (たぶんこの時間はあいつだ) わたしがドアを開ければ案の定、そこにいたのは見慣れた姿だった。 「よ。これ、今週の晩ごはんの分な」 彼が……晴矢が持ってきたのは近所のスーパーのレジ袋だった。おおきめのその袋には、野菜を中心に肉や魚まで入っている。 「いつも世話をかけるな」 珍しくわたしが礼を言えば、彼は驚いたように目を丸くしてそれからそらした。わたしが礼をいうと変なのだろうか。 「お湯を沸かしっぱなしだから戻る」 「まーた今日もカップ麺か?」 「ちがう、今日はカップ焼きそばだ」 「どっちも同じようなもんだろ」 ラーメンと焼きそばは違うんだ。いやそんなことはどうでもよくて。 「なんでもいいから、君はその辺に座っときなよ」 「あー、冷蔵庫に買ってきたもん入れなきゃならねえから。涼野のもついでに持ってってやるよ」 (あくまでもわたしに座れと言うのだな……) わたしの返事も聞かずに晴矢はキッチンにいってしまったので、有無を言わさずわたしは座ることになってしまった。 確かにわたしが包丁を持つのは危険だと自覚はしているけれど。たかがお湯を注ぐくらいどうってことない。散らかっていた机を片付けながらわたしは思った。
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