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ミサイルが自分の後ろを抜けて、虚空に消える。
そして、遠距離弾に切り換えて機体を捻り機首を上げてロックする。
ロックしたまま敵をしばらく追い、トリガーを引く。
「ミドリ、フォックス3!」
白い煙が黒点目掛けて翔んでいく。
当たらなくても、逃げてくれればいい。
とにかく『姫』から引き剥がせばどうにかなる。
『1機撃破確認。その調子で行ってくれ!』
遠くに小さく爆発。
次の敵に狙いを定め直しつつ『姫』とクロスする。
『スネアドラムスよりミドリ、突出し過ぎだ!狙われる!』
スネアドラムスの声が耳に入らない。
僕の目はすれ違った『姫』の姿に釘付けにされていた。
ワインレッドの映える、芸術品の如く鮮やかなその機体に。
今までは畏怖の対象でしかなかったスペードのQのエンブレムが、今は目の前にある。
「ミドリよりスネアドラムス、スペードのQのエンブレムを確認!『姫』だ!間違いない!」
真紅の機体は反転して、僕の横へと並ぶ。
空の上で、僕達は初めてお互いの姿を確かめた。
サムズアップの後に、彼女の声を初めて聴いた。
『ハロー、ボーイ。シャルィダンス?』
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