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「私達は醜過ぎる。だからこそ、この世界の綺麗さに逃げることが出来る……この世界に融けて消えてしまえるなら、と思う」
私は自分の散乱した心情を片付けるように呟く。
私の足を前に工具を握るジジィに語るでもなく、ただ呟く。
「でも、なぜそんなことを思うのか……それがわからない。空を見ている内に答えが見つかるかもしれないし、見つからないのかもしれない。それにすら確信などありはしないのに、何故かしらね」
「なにをするべきか、それすらもわからんのだろうよ」
工具をギブスの上に当て、削り切りながらジジィは相槌を打つように呟く。
そうなのだ。
私は逃げているか、当惑しているのだ。
何故なら、自分自身のコンパスを失ってしまったから。
「なにか思い出せるようになったら、その迷いも簡単に消えるだろうて。よっこい、しょ!」
バキバキッ、と壊すように私の右足からギブスを外す。
「どうだ。痛むかね?」
自由になった右足を動かしてみる。
久しぶりの感覚に僅かな違和感はあるが、なにも問題なさそうだ。
「大丈夫みたい。早く湯浴をしたいのだけど」
「シャワーなら使えるだろう。タオルとかは用意させる」
ありがとう、とだけ呟いて私はシャワー室に向かう。
久しぶりになにも気にしないでシャワーを浴びれる。
それでも、今の私には充分だ。
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