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「着替えとタオルはコレですね。完治おめでとうございます」
「ありがとう」
ナースから飾り気のない下着と寝間着、そして白いだけのタオルを貰って私は礼を言う。
なにがおめでとうなのか、わからないが。
「下まで歩いて行けます?」
「行くわ。リハビリよ、リハビリ」
私は付いてこようとするナースの手を煩わせぬようにスタスタと歩く。
きっと、彼女から見た私はさぞ可愛げのない患者に見えているだろうが。
「やはり、体力が落ちてるわ」
病室からシャワー室まで歩く間に息が上がりかけている自分に呆れる。
脱衣間で籠に着替えとタオルを置き、服を脱いでいく。
最後にパンツを脱いだ拍子によたついて鏡を見てしまう。
貧相かつ清廉さもない傷のある自身の姿が、ありありと写し出されているのが嫌になる。
そのまま、脱いだ着物をまとめて置いてから垢擦りタオルを片手にシャワー室の中に入る。
栓を捻れば頭上から降り注ぐ冷たい雨。
垢擦りタオルを濡らしてから右肩に舞う蝶の刺青を擦り、そして手先まで擦って持ち変える。
そして、左肩から手先まで磨いて背中を、胸を、腰を、そして太ももから遂に足を擦る。
みるみる内に出る垢がシャワーの水に流されて落ちていく。
不健康に白い右足を入念に磨き、次々と浮かび上がる垢を落とし、ようやく落ち着く。
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