運命の日

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聞こえた低い唸り声。 ガサガサと草をかき分け、それが姿を現す。息を飲んだ沙耶の目に、大きな獣の影が映った。 「夜月神…様ですか?」 恐る恐る声をかけるが返事はなく、獣はゆっくり近付く。 その時、雲の切れ間から月が顔を覗かせ獣を照らした。 目に映った白く大きな狼。 青い目に鋭く尖った牙。 首には赤い数珠の首飾り。 艶やかな毛は、月光で銀色に輝いている。 狼を目の前にしても不思議と恐怖はなく、その堂々とした美しい姿に見とれた。 「綺麗」 思わず声を漏らすと、大きく鋭い瞳が不機嫌そうに光る。 「すみません」 沙耶は我に返ると、慌てて畳みに手をつき深々と頭を下げた。
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