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「入国できん?」
男は驚き、酒を置いた。若い青年である。年は二十に見えたが、その声は驚きつつも落ち着いていた。
彼の隣に座る中年の髭をたくわえた男である。
彼らは先ほど出会い、酒を酌み交わしていた。
奏の酒飲み場である。寂れた店であったが、よく栄えた店だった。
「なんや、知らんのかい。周が内戦で鎖国しとるもんで、物流れてきぃひんのや。
周から出稼ぎに来とる奴らが嘆いとるやないか」
ほら、と顔は向けず一ヶ所を指した。
その先には、周国人によくある白い肌に、色合いは違えど濃い色の髪をした者達が七人ほど集まり酒を呑んでいた。
どこか彼らの表情は暗い。
「参ったわぁ。いやぁ、西海の島から出てきちゅーけ、周に行った親戚と連絡取れなくてなぁ。
田舎はあかんわぁ」
「難儀やなぁ。
まぁ長くおるんやったら、ここは仕事もあるし金には困らんやろ」
さ、と中年の男は青年に酒を進めた。
青年はありがとう、と酒を飲み、また別の話をし始めた。
そんな彼らの会話に、聞き耳を立てじっと眺める者がいた。
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