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「そうだ、まだ返事を聞いてない」
孝風は朝、寝間着を脱いだ雫の一挙一動に目をやりつつ聞いた。
「昨日俺の意見聞かなかったやないか。
えぇよ。行くわ。山越えまでやで」
雫は何事もない様に言った。
服を着ていた時は分からなかったが、直に見れば無駄な筋肉のない、細くもしっかりしたものである。
その上、切り傷や火傷の小さな傷も大きな傷も多くついている。
孝風は魔界の者の中ではずっと鍛えている方である。そんな孝風を追い詰めた雫だから、ただの男ではないと分かっていたがここまでとは思っていなかった。
「じろじろ見んなや。恥ずかしいわ。
そもそもなんで俺に願ったんじゃ」
「なんでと言われましても…実は山越え出来そうな人を探してて。
他にも声をかけてはみたんですが、無理でした」
「守衛を雇えばええやないか」
「もう出払っていないし、そもそも金がないんです。
周に入ったら否が応でも金を使いますから」
「金?」
「賊から逃げるために。幸い、僕らは商人じゃないから失う物も少ない。銀や銅を握らせれば良い。それで持てばいいんですがー」
周は治安の悪い国である。まだ奏に近い場所は良いが、中に入るに連れて内戦もある地であった。
国力の無い国が鎖国までしたのだから、また治安の酷い事になっているのだろう。
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