周国潜入

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街に出て、いくらか食糧などを買い揃えて二人は山へ入った。 山は雪山ではなかったが、低い山が連なるもので、短くとも三日はかかるというのが孝風が出した結論である。 周も奏も山地が領土の殆どを占める国であり、二人とも山には慣れていた。 夏の為に木の実は無いが草や植物の根、動物など知識があればこの期間であれば飢えを凌げ、周は基本的に寒い土地であるため、毒を持つ虫も少なかった。 雨期を過ぎたせいか土は湿っていたものの柔らかくはなく、足をとられることはなかった。 「この山を越えたら国境です。関所はこの峠。ここは深すぎて通れないので、越えるとすれば僕らのいるここらへん一帯です」 孝風は山の地図を広げながら雫に説明した。 「監視も見回りはここをしているでしょう。夜更けにここを越えましょう」 孝風の言葉にいや、と雫は止めた。 「夜はこっちも視界が悪い。灯りが点けられんから向こうの姿は分かるやろが動きづらい。土地勘があっても山は怖い。 監視も、夜は神経が澄んで敏感だ。 夜更けは止めて日の入りにしよう。それなら暗くとも、まだ分かるさ」 「なら夕方は夜に向かって気を張り始めるんじゃー」 「いや、それはないさ」 雫は言うと顔を上げ、隣の山の頂上辺りを見た。 「夕方は鳥や動物が巣に帰る。多少音を立てても、気付かれないだろう」
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