4人が本棚に入れています
本棚に追加
それから成來は手紙を差し出した。
フィンを預かった際、フィンの師である羊河から渡されたものである。
エリーゼは受け取ると手紙を読み出した。
中には山での妖怪の立場の事、フィンの生活、仙界の様子が書かれているのだろう。
エリーゼは顔を青くしたり眉を顰め身震いをしたりしていた。
エリーゼを見ながら、成來はフィンを預かった時の事を思い出していた。
成來はフィンを預かる前に羊河と話した事はあったが、活発でどこか引きの強い女だった。
しかし今回会った彼女は凜として、やけに穏やかであった。
別れに泣こうとするフィンを叱咤し、成來に向き合うと顔を赤らめもせず真摯に膝を折り、頭を下げた。
―お頼み申し上げる。必ず、フィンを無事お届け下さるよう。
羊河は言うと垂れがちの瞳をすっと上げ、成來を射抜く様に睨んだ。
この瞳が語るのは、届けなくば恨むという真意である。成來は必ず、と答えてフィンを預かり今に至るのだ。
どちらも偽り無き彼女の姿である。それが恐ろしく、成來は珍しく感心した。
突然、甲高い悲鳴が聞こえた。
フィンの声である。
成來とエリーゼが庭に目をやると、更夜がうずくまり、フィンが駆け寄っている姿だった。
「アリロール!」
成來は叫び、庭に飛び出した。
「いけない!早くジョインの下へ!」
エリーゼは執事に命令すると、更夜に駆け寄った。
右の脇腹を押さえ、背を丸めて俯く更夜の額は脂汗でいっぱいだった。
最初のコメントを投稿しよう!