フィンの家

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それから成來は手紙を差し出した。 フィンを預かった際、フィンの師である羊河から渡されたものである。 エリーゼは受け取ると手紙を読み出した。 中には山での妖怪の立場の事、フィンの生活、仙界の様子が書かれているのだろう。 エリーゼは顔を青くしたり眉を顰め身震いをしたりしていた。 エリーゼを見ながら、成來はフィンを預かった時の事を思い出していた。 成來はフィンを預かる前に羊河と話した事はあったが、活発でどこか引きの強い女だった。 しかし今回会った彼女は凜として、やけに穏やかであった。 別れに泣こうとするフィンを叱咤し、成來に向き合うと顔を赤らめもせず真摯に膝を折り、頭を下げた。 ―お頼み申し上げる。必ず、フィンを無事お届け下さるよう。 羊河は言うと垂れがちの瞳をすっと上げ、成來を射抜く様に睨んだ。 この瞳が語るのは、届けなくば恨むという真意である。成來は必ず、と答えてフィンを預かり今に至るのだ。 どちらも偽り無き彼女の姿である。それが恐ろしく、成來は珍しく感心した。 突然、甲高い悲鳴が聞こえた。 フィンの声である。 成來とエリーゼが庭に目をやると、更夜がうずくまり、フィンが駆け寄っている姿だった。 「アリロール!」 成來は叫び、庭に飛び出した。 「いけない!早くジョインの下へ!」 エリーゼは執事に命令すると、更夜に駆け寄った。 右の脇腹を押さえ、背を丸めて俯く更夜の額は脂汗でいっぱいだった。
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