フィンの家

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「なんという…我慢強い子だ…」 淡い黄色の壁紙が映える病室で、フィンの父、ジョインは語った。 ジョインは内科医である。フィンの年から考えるにしては多少老けた男である。 しかし大柄な体に似合わず、優しげな印象を受ける辺り、フィンと通ずる所のある男であった。 「一体どんな目に遭ったというのです…仙界は…一体…」 ジョインの表情は歪みきっていた。 更夜はベッドに横たわったまま目を瞑っている。 その横に座る成來は何か言おうとして、幾分迷い、やはり口を噤んだ。 「何度か自分で治したのですね。 腹から胸、足、腕、切り傷や打撲ばかり…とても少女の体とは思えない。 よく我慢を…精神力がそうさせたのか… それでも腹だけは駄目だったようですね…傷口を清潔に保ったおかげで、敗血症にもならず済んだ」 「…この子は医学の心得がありますから」 成來が呟くと、更に盛大にジョインは顔を歪めた。 「そういう事ではありません! 清潔に保つという事は、傷口に触れると言うこと!麻酔が無いならば、それは苦痛を伴うのです!! なぜこんな無理をさせました!」 ジョインは叫ぶと、しまったという顔をして俯いた。 彼は無理せざるを得ない現実があった事を察してはいた。 しかし、それも更夜が吐露するなり、成來が察するなりすればまだ和らいだのではと思えば、更に胸が痛んだ。 もしかしたら息子を送り届けて貰うために無理をしたのかもしれないと考えもしたが、やりきれない思いは溢れてどうしようもなかった。
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