第三章 【恋心】

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素直に従う。 シュッ!! 甘くて優しい香りがする。 「どうぞ、目を開けて下さい」 「バラの…香水?」 「はい。 今のお客様にはピッタリかと」 この人凄い…本当に魔法使いみたい。 「佐藤さん、ありがとうございます!! 行ってきます!!」 すると佐藤さんは笑顔を見せて私をエスコートし、ドレスの裾を持ってくれる。 店内にいた客の視線が一気に私に注がれる。 小さく“綺麗…”そう間違いなく聞こえた。 会計を済ませたタキシード姿のケイと目が合う。 いつもサラサラの髪をカッコ良くセットしている。 「どう…かな? 似合ってる?」 上目遣いに恐る恐るケイに聞く。 するとケイは目を反らす。 えっ…。 変? 「行くぞ」 そう言って私に手を伸ばした。 私は佐藤さんの手を離して、ケイの手のひらにそっと手を重ねる。 「ありがとうございました。 またお待ちしております!!」 私は振り返り佐藤さんにお辞儀をした。 店の外には黒い外車。 後部座席のドアを開けて香川さんが立っている。 彼もタキシードだ。 そこまでの数歩を踏み出した時、ケイは小声で言った。 「綺麗だ。 似合ってる」 照れ臭くて、なんだかくすぐったくて、どんな顔をして良いかわからずに笑いを隠して下を向いた。
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