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「イツキくん、すげえな…」
早川さんが感嘆の息をもらしながら僕を見ていた。
「早川さん、話くらいは知ってるっしょ。俺達の地元高校での部活抗争」
「ああ、多数の部活と演劇部を和解させたアレだろ?新聞にも載ったからな」
新聞に載ったのか、アレ。
普段は新聞を読まないから知らなかった。
それを聞いたら噂の広まり方が尋常じゃなかったことに納得がいく。
「イツキくんはそれの英雄さんだよー」
千晶先輩は懐かしむように目を細めた。
「彼がいなければ多くの部活と生徒が和解できないままでしたからね」
美樹先輩は僕の方をたたき、笑っていた。
「僕は大したことはしてませんよ。本当に演劇部が嫌がらせをしてくるのか、推測の域をでませんでしたから。もしも…ってだけで部活生を巻き込んでしまったんです」
それは紛れもない事実。
演劇部が嫌がらせをしているのはただの噂で、部活が部費、休部や廃部に悩まされていることのこじつけの可能性だってあった訳だ。
それを確認できたのは、当時のクラスメイトだった新聞部の人から確証を取れたからであって、それまでは、やはりただの推測にすぎなかった。
それだけで部活生を巻き込んだのだから、冗談めかしたゲームにして、生徒や僕自身を騙していたにすぎない。
「仮にそうとして、他に誰かが言い出したか?いや、確かに花瀬なんかは立ち向かったな。だが、イツキくんのように周りを巻き込むという大胆な発想はできなくて負けてしまった。それを考えると、イツキくんの勇気や行動には感服するよ」
タカシさんが強い眼差しで僕を見つめていた。
そんな風に思われていたなんて、気恥ずかしいきらいがあった。
「ただし、イツキくんだけはハッピーエンドじゃなかったわ。私はまだ、それが悔しいわ」
本当に悔しいのだろう。
チアさんは少し涙を浮かべながら僕を見つめていた。
本当に泣き虫な彼女は愛おしそうに銀河鉄道の夜を片手にしていた。
「それは皆さんに十二分に怒られました」
あの時は宮小路先輩と対峙したときより怖かった。
本当にもう懲り懲りだ。
「は~…すげえ奴が後輩になっていたのか。ま、いいか。イツキくん、改めてよろしく」
差し出された大きな手をしっかりと握りかえす。
「はい。よろしくお願いします」
仲間。
それはあの日に得た大切な僕の宝だ。
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