のんびりと

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アスミさんと千晶先輩が僕へ近づいてくると、ひそひそと小さな声で訪ねてくる。 「ねえ、イツキくんはチアさんに何をプレゼントするの?」 「聞いた話、春休みはずっとアルバイトしてたそうだね~」 どうやらアスミさんが余計なことを話したらしい。 プレゼントは既に用意してあるのだけど、不用意に言うとこの二人は何をしでかすか分からない。 「秘密です。ネタバレは嫌なんで、聞き出すのは遠慮してください」 「そ~いうならしかたないね~」 「そうですね~」 珍しく大人しく引き下がったなあ。 この二人なら裏はないだろうから気にすることはないか。 チアさんは銀河鉄道の夜を読みふけっている。その仕草はとても知性的で、高校生のときの子どもっぽさは欠片も感じない。 「ね~ね~。ゆかりに連絡しなくていいの~?」 まあ、ゆかりさんにも連絡しなくては、除け者にしてしまう。誰だって除け者はいやだからなあ。 「ゆかりは来ねえよ。親父が休日は見合いをさせててな。今年のチアさんの誕生日も休日だし、まず来れねえ。一応、俺が確認してから連絡してやる」 見合い…か。 早川さんは彼女が居るらしいので見合いはないだろうし、僕とチアさん、アスミさんは縁もゆかりもないし、千晶先輩達はまだ分からないが今のところは同じだろう。 「あいつ、お前らに出会って、随分と明るくなったよ。高校時代のあいつは無口で無表情で無感情だったんだよ」 「私達はきっかけです。ゆかりが頑張ったからあんなに笑っているんです。褒めるべきは私たちじゃなく、ゆかりです」 ぴしゃっと言い放ったチアさんに、早川さんは嬉しそうな笑みを浮かべ感慨深く頷いた。 「あいつ、今じゃ見合いで遊んでやがる。結婚相手を決める条件が笑えてな」 「なんですか~」 間の抜けた千晶先輩の声がすーっと漂った。 「いやな。あ、いかん。わら、わらいが…」 一人豪快に笑う早川さんを見ていた全員が首を傾げた。 「あー…腹筋がやべえ…いや、あいつ見合いの席が意味ねえんだよ。見合いの席で結婚相手は自分で探すって宣言しまくってる始末だからな」 チアさんは静かに笑いながら、ゆかりさんの見合いの様子をさも面白そうに想像していた。 「本当に、ゆかりらしいわ。やっぱりゆかりはそうでなくちゃつまらないわ」
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