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翌日、ベッドの中、薄らと目を開ける。カーテンから洩れた光が顔を照らす。「うぅん」小さく呻く。冷たい空気を胸一杯に吸い込み、吐いた。
心地いい気だるさとまどろみを堪能しようと再び目を閉じようとしたとき、携帯がピカピカ点滅しているのを発見。
手を伸ばしてヒンヤリ冷えた携帯を開く。
『送信者 化山紗名
件名 待ち合わせ
十月二十五日、正午、○○市○○駅付近の植物園前に来て』
メインディスプレイの右上に表示されている時刻は午前十一時半を示していた。
「……俺は見ていない。見ていないぞ!」
見なかったことにした。そうだ、このメールは届いてなかったんだ。そうだ、そうしよう。
…………。
秋空の下、長袖のセーラー服姿で閑散とした植物園前でポツンと立っている化山がやけにリアルに想像できる。もう――想像してしまったからには仕方がない。
軽く舌打ちをし、俺は掛け布団を跳ねのけた。
「三十分の遅刻。遅い御到着ね。何かトラブルでもあったの?」
紺のブレザー姿の化山が不思議そうにそう尋ねてきた。
俺は「いいや、寝坊しただけ」と返す。「緊張感がないのね」となじるように言われた。
今、俺達は植物園前にいる。土曜日の昼頃だと言うのに閑散としていて人は俺と化山以外誰もいない。
端からだとまるで高校生と大学生のカップルがデート場所を誤ったように見えるのだろう。何か憂鬱だ。
「で、こんな所に俺を呼び出して何の用だ?」
「出題者の義務を果たすって言ったでしょう?」
「口頭で言うくらいなら電話で話してもOKだったはずだ。ここに呼び出したそれなりの理由があるんだろう?」
ここで、『あなたとデートしたかったの』と言われたら少しはトキメクのだが……いや、こいつにそれを期待しちゃいけないか。
「最寄駅前に茅木静菜を呼び出したわ。午後一時に到着予定」
「それで?」
「尾行、するんでしょう? それよりもっと効率の良い方法があるわ。その為に必要なとっておきの道具を私が貸してあげる」
化山は革製の学生鞄からドス黒いアンテナのついた長方形の物体を取り出し俺に手渡した。携帯くらいの大きさである。
「これは?」
彼女は何でもなさそうに言う。
「盗聴受信機」
流石の俺も引いた。
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