幸福と不幸(短編)

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「……お前、バカだろ」 「バカとは失敬。私は大真面目よ」  またも革鞄をごそごそあさりだす。化山が正方形の物体を引っ張り出した。大体、それが何なのか予想できる。 「盗聴器か」 「そうよ」恥ずかしがる仕草もない。 「お前、いつもそんなの持ち歩いているのか?」 「ええ、そうだけど?」  盗聴器セットを持っているのが当たり前。そういう感性の持ち主。ぶっとんでやがる。  化山は手のひらに盗聴器を乗せ、俺に見せる。 「この盗聴器は約二百メートル先まで電波を飛ばすわ。あなたはこの範囲内で会話を盗聴する。わかった?」  ん、いや待て一つ疑問がある。 「盗聴器をどうやって設置すればいいんだ?」  化山が「その点は安心して」とやさしく言う。 「私が今日、午後六時頃まで茅木静菜と会話するわ。盗聴器は私の鞄の中に入れておけばいい」  なるほど、俺が事情聴取できない代わりに化山が取り調べてくれるのか。上手く考えてある。 「しかし、よく呼び出せたな」 「エサを使えば呼び出すのは簡単だったわ」 「エサ?」反問する。 「そうよ。茅木静菜は三森リキが好き。呼び出すには三森リキというエサが必要だった。だから三森リキも一緒に呼び出したわ。三森リキを呼び出すにはまた別のエサを使った。それでそのエサが『あなた』」  ……三森リキを呼び出すのに必要なエサが俺? なんで? どうして?  ややあって答えが出た。 「ああ……そうか、俺が『探偵』だからか」  三森リキはなんたってミス研サークルのサークル長だ。探偵という存在に興味を持っていて当然。 「ふふ、わかっているじゃない」  俺としてはあまり面白くない。嘘をついてまでして貴重な土曜日の午後を無為に過ごさせるのは相手側に申し訳ない。  俺はその後、化山から盗聴器具について説明を受けた。  なんでも盗聴器具はセットで七万したとか。  壊すと弁償してもらうから、とマジな声で言われた。
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