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「『あなたも』って?」
「実は私もそうなのよ」化山は楽しげな笑みを浮かべる。
うぅむ、俄かに信じ難い。嘘をついているかどうかは目を見ればわかるとどっかの誰かが言っていたのを思い出し、俺は精一杯、彼女の目を見つめてみた。
彼女も負けずに俺の目を見返し、結局はあまりに澄んだ綺麗な瞳に耐えられなく、俺が視線を反らすに至った。
――何やってんだろう、俺。
彼女は半眼で尚も俺を強く見つめてくる。実に不満そうだ。
「……ふうん、あなたは私を疑っているようね」
そりゃそうじゃないか。
自分のような特殊な『不幸』を持つ人間はそういない。しかもこの大学の一角でたまたまその二人が出会うなんてこと、天文学的な確率で有り得ない。
突然、彼女は「いいわ」と言って、学生鞄から一冊の手帳を取り出した。
可愛らしいクマのキャラクターのロゴが入ったピンク色の手帳の登場に俺は若干焦った。
化山がこんな可愛らしい手帳を持っているなんて……。
「見て」
そう言って化山はクマさん手帳を俺に開いて中を見せる。
手帳は筆圧の弱い薄く綺麗な字が並んでいた。
『人の名前』
『どこで何を使ってどうやって誰を殺したのか』
『殺害動機』
『逮捕の有無』
それらが箇条書きで記され、凶器や動機まで事細かに書かれてあるものもあれば、名前と誰が殺されたのかだけ書いてあるものもあった。
毒殺、刺殺、絞殺…………少なくともクマさん手帳には似合わない内容だな。
「それは……殺人犯の名簿か」
「そうよ、私が今まで出会ってきた殺人犯達。五十三名」
化山が得意げに、『わかったでしょ?』という眼差しを送る。
悔しいが理解した。俺が関わったことのある事件も手帳の中に詳細が刻明に書かれてあったからだ。そしてそれは警察も知らない事件……しかし『化山 紗名』は知っている。
どうやら、化山紗名は本当に俺と同類らしい。
「……わかった。疑って悪かった」
「わかってもらえて嬉しいわ」と微笑。
女神さながらの美しい微笑だった。
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