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次にお返しに俺が本当にその不幸を持っているかどうかの証拠として、講義室の最後尾の列で自分が今まで出会った殺人事件について話していると、ある違和感に気がついた。
化山紗名の反応が変なのである。
やがて、その原因がわかった。
――俺は殺人犯と頻繁に出会ってしまうこの『不幸』を嫌っている。
――化山は殺人犯と頻繁に出会えるこの『不幸』を愛している。
悲しいほどの食い違い。性格の不一致。
それに化山も気づいたようで、途中から口を強く閉じ、黒板を眺め不動。俺を無視。終始、眉間に皺を寄せ、不機嫌そうにしていた。
感性の違いだから、しょうがないと思うんだが……。
講義が終わった後、まだご立腹のようだったので波風を立てないように何も声をかけずに帰ろうとしたところ、鷹を思わせる俊敏さで俺の左手首を強く握り締めた。
これが恋人に優しく寄り添うような握り方なら俺は照れただろう。
しかし、化山の手は『獲物を逃がさない』と強く物語っていた。
彼女は学生鞄を肩に引っかけ席を立つなり、言った。
「――丁度、今、私の入っているサークルに殺人犯がいるわ」
俺は半ば無理やり、講義室から引きずり出された。そのままズルズルとあてもわからぬまま連れて行かれる。
彼女は俺を離す気がないらしく、強制連行されている俺が多くの人に動物園の猿のように物珍しく眺められようと握力を弱めることはなかった。
校内の端っこら辺に幾つもあるプレハブの内一つに到着するやいなや、俺は背中を強く押され中に押し込まれた。
……今なら拉致された人の気持ちが多少なりとも理解できるような気がする。
ここのプレハブ群は主にサークルによる部室となっている。
俺が連れ込まれた二階建てプレハブの一階にあるサークル室は中々広かった。想像以上と言ってもいい。教室半分くらいの大きさ。真ん中に大きな机がドンと置かれてあり、本棚がいくつか壁際にある。壁にパイプ椅子が数脚立て掛けられていた。
床には白いカーペットが敷いてある。ただ入口付近は靴を脱いだりするためにブルーシートが敷かれていた。
サークル室には人が四、五人集まっていた。全員が全員、よろけながら登場した部外者の俺を目を丸くして見つめてくる。
あああ、やめてください。見ないでください。
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