幸福と不幸(短編)

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 俺は額を掻く。  さっき、化山は俺を『探偵』と言った。そして三森は俺に『妹の失踪』について話した。  なるほど……つまり……化山は俺に探偵ごっこを御所望か。  俺が心底呆れて黙っていると化山が「探偵さん、何も聞かなくていいのかしら?」とわざとらしく俺に言う。『もう、何をすべきか理解しているでしょう?』というニュアンスが入っているのは言うまでもない。  俺は溜め息をつき、疲れたように言葉を発する。 「まず、えっと、家出の原因ですが……何か心当たりはありませんか?」 「……そうだな、特にないね」 「では、家族構成は?」 「小さい頃に親が死んでね。家族は僕とカグヤの二人だけだよ。前までは親戚の家で暮らしていたんだが、僕が大学生になってからは、両親が残してくれていた家で二人暮らしさ」 「カグヤさんはどういう気性の持ち主ですか?」 「さっき言った通り、優しい子だよ。誰かを傷つけるのを極端に嫌がる性格をしている。だから、僕としても家出は予想外だったんだ。その優しさにつけこまれて、男の元に行ったのかとも考えたんだが……考えすぎかな?」 「さぁ、今は何とも」と苦笑まじりに返しておく。  何度か適当に質疑応答を繰り返した後、俺は「失礼しました」と興奮した面持ちのミス研部員達に軽く会釈して、プレハブを出た。  『やっと重圧から解放された!』と喜びたいところなのだが、まだできない。隣に性悪女の化山が無言で立って居た。横目で可憐な横顔を伺う。 「サークルはいいのか?」「いいのよ、別に」  そうですか、とウンザリしたように俺は呟き、帰路についた。化山が当然と言わんばかりに俺の隣を歩く。  今日、こいつにこの『不幸』を話したのは誤りだった。しみじみそう思いつつ駅に向かって歩き出す。しばらくして、化山が口を開いた。 「三森カグヤについての情報が不足しているから付け足すわ。三森カグヤは兄こと、三森リキの事が好きだった。彼を一人の男性として見ていたの」  ……近親愛。禁断の愛。そりゃなんというか……ご愁傷さまです。 「ふうん、なら、家出の可能性は低いな。何のいざこざもないようだったし。好きな人の家を出たがるもんでもないし。はは、カグヤだけに月に帰ったのかもな」
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