幸福と不幸(短編)

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 ファミレスの一番奥の方にあるテーブル席に俺達は向かい合って座っていた。頼んだ物はお互いドリンクバーだけ。 『他に何か頼まないのか?』と尋ねると『お金が勿体ないわ』と化山は素っ気なく答えた。この変人でも金銭感覚は一応あるようだ。少し安心。  化山はテーブルの上に一枚のルーズリーフペーパーを置き、セーラー服の胸ポケットからシャープペンを取り出し、「被疑者の詳細を書くわ」とサラサラと綺麗な字を書き、文を作成し始めた。女の子っぽい丸い字ではなく、細く、繊細な文字。 『・茅木 静菜(かやき しずな)   三森が大好き。好き過ぎて異常。彼の妹であるカグヤの存在をとても疎ましく感じている。カグヤとは前々から仲が悪い。  ・上谷 昴(かみや すばる)   去年から茅木に惚れている。茅木が三森のことが好きな為、事あるごとに三森に反発する。性格は大雑把で荒っぽい。衝動に任せるタイプ。  ・矢口 波斗(やぐち なみと)   三森カグヤを溺愛』  なんとまぁ、愛憎膨らむ関係だ。首を突っ込みたいとは思わないね。ミステリってより昼ドラマの泥沼だな。これは。 「被疑者は全員、三森カグヤと面識があるわ」  そう言ったところで化山はペンを置こうとした。俺は「待て」と静止を要求する。 「書くべき人物を一人忘れているぞ」  化山は目をパチクリさせた。若干驚いた顔。 「……誰かしら?」  俺は目の前の女をビシッと効果音がつきそうな勢いで指さす。 「――お前だよ、『化山紗名』。俺からしたらお前だって十分犯人の可能性があると思う。死体を既に見つけているのだってお前が犯人だからかもしれない」  化山がキョトンとした顔。そして自分を指さし、 「私? 私は人なんか殺さないわ」  さぁ、どうだろうな。あのサークルの中でこいつ以上に異常な奴がいるとは思えないけどね。こいつだったら笑いながら人間を微塵切りにしてすり鉢でミンチにできそうだし。 「失礼かもしれないが、殺人事件では犯人が嘘をつくのが当然だ。お前が犯人ならば嘘をついている可能性だってある」 「へぇ」  化山は顎に手をやり少し考えた挙句、クツクツ喉を鳴らして笑った。 「いいわね、それ。わかったわ、私の名前も加えましょう」  被疑者リストに一名の名前が書き加えられた。 『・化山 紗名(かやま さな) 出題者』
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