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骨_3
隆弘の母親は、医者のその失礼ともとれる言辞に、べつだん不興をしめすようなことはなかった。
母親は家に帰ってから、父親になにも伝えることはしなかった。
しかし父親のそぶりは、事態をすでに飲み込んでいるようでもあり‥これはいささか奇妙であった。
隆弘本人は幼稚園児であったこともあり、骨折の苦痛いがいに訴えるべきことはなかった。
隆弘の父親には、どこかまっとうな世の中になじめないようなところがあった。
家庭をもってから‥それでも職を転々とし、引っ越してばかりいた。
母親は黙ってそれにしたがっていた。
両親は新興宗教に入っていた。
その新興宗教はキリスト教系で、大きな市や街などにはかならず拠点があった。
その信仰心において、両親がどれほど深く宗教に傾倒しているのかということは‥隆弘には、よくわからないところがあった。
両親はとくだん、隆弘に信仰を求めるようなことをしなかった。
隆弘はその宗教から自由だった。少なくとも、彼は自分でそうおもっていた。
そして、ある年。
小田隆弘たち家族はN県に転居する。
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