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【本気じゃないと、知っていた。】
出会いは、母校の文化祭。初対面で告白した僕に、校門で待っていてくれれば、と言った君。
待ち始めて一時間経つ頃、彼の意図に気がついて、つい笑みが漏れた。
嗚呼――彼は本当に、僕の理想そのままかもしれない。
彼を一目見たその時、その瞬間、彼の犬になりたいと、そう思った。
これはもう運命だとも、思った。だって魂が、無条件で彼に惚れ込んだのだから。
そして五、六時間経った頃やっと、彼の姿を見付けた。
笑顔でひらひらと手を振る僕に気付いた彼は、一瞬目を見開いて、次には笑った。とてもとても、楽しそうに。
しばらく二人で話して、僕の気持ち、個人情報、性癖、全て明かした後の、彼の言葉。
「俺の犬になるなら、恋人にもなってやるよ?」
頭を甘く痺れさせるやけに低く甘い声、人を問答無用で捩じ伏せるような見下す視線、侮り試すような強い笑み。
それらを見、聞き、肌で感じたその瞬間。
嗚呼駄目だ。このまま行けば僕は、すっかりこの子の手中に堕ちる。そして、遊ばれる。きっときっと、彼は僕を駄目にする。ここで戻れば、まだ。
そう、なけなしの理性が悲鳴を上げた。
けれど傍ら、彼になら良いと。彼のためなら駄目になっても構わないと、思った。思って、しまった。
「――お願い、します……。」
口をついて零れてしまえば、もう、戻れる筈は無かった。
僕の言葉を聞いた彼の、勝ち誇った笑みが、今も心に焼き付いている。
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