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【この温もりさえ嘘なんだ。】
「――み、かすみ、……霞。」
グワシと頭を捕まれ、我にかえる。
「っ、あ……葉月、くん?」
椅子に座っている彼を見上げると、ため息をつかれた。
「俺が呼んでるってのに無視か?良い度胸だな、駄犬が。」
言いながら、陽は手の力を強めていく。
「ごっ、ごめ、ぼーっとしてた……ってこめかみ、指食い込ん、でっ、いた、いたい、っ感じちゃ……っ!」
「よし死ね。」
「うあっ!?」
ちょっと痛みが度を越えたせいで少し気持ち良くなりかけたら、思いっきり額をひっぱたかれた。
頭が歪むぅ。そうぼやいたら、ンなワケあるかボケ、と返ってきた。ですよね。
「ったく……俺の声に気付かないほどに、何考えてた?」
「え……ナイショ☆っていたたひゃひゃひゃ!ほっへふへらひゃいれ!!」
陽との関係について考えていたなんて、なんとなく言えなくて、ウインクでごまかそうとしたら物凄い力で頬を抓られた。
……あんまり痛いとほんとに感じちゃうよ……良いのかなぁ。
「良いワケあるか。」
ぺんっ、と頬を叩かれる。痛いよぅ。
「陽ヒドイ。ていうかどうして僕の考えてることわかったの、以心伝心?まさか愛の力?君と僕の心は繋がってるって、そういうこと!?」
「名前で呼ぶな。お前がわかりやすいからだ、愛は無いから安心しろ。繋がってはいるだろうが、」
「え!」
「 主 従 関 係 で、な。」
まくし立ててみると、陽はすかさずさくさくと切り捨て、一瞬期待させて、たたき落とした。
「上げて落とすとこも大好きだよチクショー!!」
「はいはい。」
良いからさっさと話しな、と言って、陽は僕の頬を撫でる。
「っ……、」
当たり前だけど温かくて、言動とは裏腹に優しい手。
じわりと熱が広がる、鼓動が早くなる。
(この温もりもきっと嘘なのに、)
それをわかっていてどうして、この愛しさは消えてくれないんだろう。
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