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結局その日は三時で練習を終えた。
持田が再度現れることはなかった。
『おい、なんだよ、あの新顧問』
そう話を切り出したのは恵(けい)だった。
恵も三年で、いつもはバカな話をして皆を笑わせることもあったが今日だけは違っていた。
『まぁ、確かにな。完全に放置だし、教える気ない感じだったよな』
サウザンバーガーを食べる手を止めて晃行が答える。
夕方だというのに駅前のモスバーガーには悠太たち六人以外にはおばさんの二人組がいるだけでがらんとしている。
何か話し合うべき事案ができると駅前のモスバーガーで集まるのが悠太たちの恒例となっていた。
今日も誰が提案するでもなく、じゃあモスでと部室をあとにした。
みんながこれからサッカー部をどうするべきなのか、思案しているようだった。
『たぁちはどう思う?』
悠太が聞いてみた。
たぁちは央明のあだ名だ。
由来はわからないが穏和な印象にしっくりくるあだ名だ。
央明はフローズンケーキバーを食べる手を休め、紙ナプキンを一枚取ると指についたクリームを丁寧に拭く。
『まぁ、もう少し様子を見ればいいんじゃない。今日はたまたま忙しかっただけかもしれないし』
『そうだよな。俺もそう思うんだ。来週末には練習試合だって控えてるし、それまでには、さ』
悠太は一気に言いたかったことを吐き出した。
やっぱり、二条から来た先生だし、期待していた顧問でもある。
何か自分たちが求めていたものを持っているはず。
そう思いたい。
『だといいんだがねぇ』
晃行はそう言うと残ったハンバーガーを食べ干した。
恵はその横で黙っている。
持田への不信感を拭いきれない様子だった。
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