第一部 ヘンな顧問との出会い

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次の日は雨だった。 グラウンドには水溜まりができ、野球部やソフトボール部も室内練習を行っていた。 悠太は朝から職員室へ向かった。 持田は昨日と同じスーツに紺のネクタイだった。 特に忙しそうにすることもなく、悠太の姿を認めると一瞬目を止めたが、また自分の机の上を整理し始めた。 『今日はどうしましょう?』 悠太が言うと、持田は手を止めた。 少し考えているような様子にも見えた。 しばしの間。 『昨日と同じでいいですよ』 持田は表情一つ変えない。 『そ、そうですか』 つとめて冷静に振る舞ったつもりだったが、悠太は言葉に少し詰まった。 『あ、あの』 悠太の言葉に持田は悠太の顔を見た。 初めて目を合わせたかもしれない。 目じりが少し下がっている。 しかし、笑顔でもなく、見る者にオープンマインドな印象を与えるわけでもない。 冷静さ、いや、冷酷さに満ちた目とでも言えばいいだろうか。 そんな目をしていた。 『先生、二条からいらっしゃったんですよね』 その言葉を聞いて、一つ小さなため息をした持田は再度目線を悠太から外した。 『そうだが』 『俺たちにも、教えてください。二条のように』 持田は目の色一つ変えなかった。 ややあって 『私は副顧問をしていただけだよ。私は選手としての経験はないし、二条でも指導に直接関わっていたわけじゃない』 『そ、そうなんですか……』 『それに』 持田は小さく息を吸い込む。 『二条のサッカーは、君たちには無理だ』 時間が止まったように、すべてが凍り付いた。 悠太は、立ち尽くすしかなかった。 『すいませんでした。失礼します』 そう言って、悠太はその場を立ち去った。 背中に持田の視線を感じたが、振り返る気にはなれなかった。
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