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それから三日間、同じような日々が続いた。
悠太は先輩たちから受け継いできた練習メニューをチームに指示し、それを淡々とこなす。
しかし、それまでとは大きな違いがあった。
それは、指導者がいないこと。
練習自体がルーティーンワークと化し、やるべきことをこなすだけになっていた。
そうなるに従い、練習はこなしていても当然チームに締まりがなくなってきているのが誰の目にも明らかだった。
金曜日の練習後、悠太は晃行に声をかけた。
『なんだよ、話って』
『うーん、なんて言うかな。その、チームのことだ』
晃行は学校から小さな駅へと続く並木道を歩きながら、ため息をつくと視線を宙に浮かせながら言った。
『あぁ、わかってるよ。てかそれ以外ないだろ。悩んでるのバレバレ。長い付き合いなんだから俺ぐらいにゃハッキリ言えよ、まったく』
ははっと悠太は軽く笑ってしまった。
晃行の言葉には、嫌味がない。そして的確な要素がある。
今回も見抜かれていたことが、ちょっとした安心感とキャプテンなのにという情けなさの混ざったような感情を悠太に抱かせた。
『俺は、チームを強くしたい』
晃行は悠太からの返事を待たずに言った。
宙に浮いていた目線は、いつの間にかまっすぐ前を見つめた力強いものに変わっていた。
『そうだよな。俺だって強くしたい』
桜が咲いても、夕方になると冷えた風が肩を撫でる。
さっきまでランニングをして、ろくに汗を拭かずに帰途についているから一層そう感じるのかもしれないが。
『あのさ晃行、もっかい持田先生のところに行こうと、オレ思うんだ。』
晃行は黙っていた。
悠太は続ける。
『強いチームになれるように』
『そうか』
それからしばらく、アスファルトに靴の音が響くだけで会話が止まった。
『俺は、悠太があいつを買いすぎじゃないかと思う』
晃行の表情は険しい。
『二条といえば、田中先生が絶大なる指導力を発揮しているとこじゃないか。あいつはそれを横で見てきただけだろ。そんなやつに二条を超えるチームが作れるのか』
悠太は返事をすることができなかった。
晃行の言うことは、持田自身が言っていたことと変わらない。
二条で副顧問をしていたから、美里でたまたまサッカー部を任されただけのことなのか。
自分たちの熱意は、穴の開いたグラスからただただ流れ落ちるだけなのか。
そんな風に思えた。
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