プロローグ

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桜のつぼみが早くももう咲きそうだ。 矢島悠太は右手に握る卒業証書が入った筒を握る手に、力を込めた。 『しおらしい顔してどうしたー!』 声と同時に背中に衝撃が走る。 晃行だった。 思わず表情がゆるむ。 何か言わなければいけないのはわかっている。 だけど、今のこの気持ちを的確に表せる言葉が見つからなかった。 晃行はそれを察してか穏やかな笑顔を浮かべながら続けた。 『なーんか、長かったようであっという間だったな』 『あぁ』 『特に四月からはな』 そう言って、晃行は少し笑ってみせた。 悠太にはその意図するところが痛いほど理解できた。 長かった。 でもあっという間だった。 この一年で、自分がどれだけ変わったか、自分ではわからない。 でも、多くのことを学んだ実感はある。 きっと晃行も同じ気持ちなんだろう。 まだ咲かない桜のつぼみを見つめながら、悠太と晃行はしばらく春風に身をゆだねた。 この一年をゆっくり振り返りなから。
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