第二部 転換

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『俺はもう限界だ。あれじゃあチームは良くならない』 恵は吐き捨てるように言った。 悠太は押し黙った。 晃行も表情は暗い。 『今週末には試合も控えてる。もっとチームが強くなるような練習をしたい』 『じゃあどんな練習メニューがいいんだよ』 悠太は切り返した。 『筋トレ、走り込み、そしてシャトルラン。考えりゃいくらでもあるだろ』 恵の意見は確かに的を射ていた。 筋トレやランニングがないサッカー部の練習なんて聞いたことがない。 『悪いが俺も賛成だな。二年からだってそういう意見が出てる』 晃行は重い口を開いて言った。 目線は伏せがちのままで、どこか悠太への申し訳なさがにじみ出ていた。 『たぁちはどう思う』 央明はフローズンケーキバーを食べ干すといつもと変わらず紙ナプキンで口元を拭いた。 『俺はみんなが良いと思った方法でいいよ』 悠太はもう反論する術がなかった。 こうして、次の日から自分たちが考えたメニューで練習を行うことになった。 サッカー部を強くしたい。 その思いで持田に賭けた自分が、なんだかみじめだった。 結果はチームメートからの信頼を失っただけだった。 最初から自分たちでやれば良かったんだ。 そう自分に言い聞かせながら、駅前からバスに乗った。 バスの窓から星が見える。 一番星だ。 まだ空の反対側は太陽が残した光が山肌を少し照らしている。 夜になる直前なのに、あの星は明るく存在感がある。 だけど太陽が残した山肌の光のせいで何も照らしはしない。 暗闇を照らす星は、暗闇だから目立つ。いろいろなものを照らす。 真っ昼間だとその存在さえ気付かない。 でもその中間、つまり変化の途上にあると、存在には気付くけれど、それがもたらす力にはまだ気付けていない。 そんなダイヤの原石みたいな存在感が持田にはあった気がした。 あの一番星のように。 その直感を自分は捨てきれたか? 悠太は自問を続けるが、もう後戻りはできなかった。
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