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四月一日
今日から高校三年になる。
最終学年。
もうすぐ新一年も入学してくる。
なんだか去年以上に身が引き締まる思いだ。
矢島悠太はサッカー部の部室へ向かった。
部室と言っても運動場の一角に建てられた掘っ立て小屋みたいなもので、部員全員なんか一度には到底入れきれない。
雨漏りはするわ冬は寒いわで部員の評価は散々だった。
それでもサッカー部が独占できるスペースには変わりなかったから同学年の部員の間では愛着があった。
部室へ入ると晃行が先に来ていた。
サッカーシューズの紐を丁寧に結んでいる。
晃行は黒くてゴツい割りに細かい作業が得意だった。
『お、キャプテンお出ましか。今日も頑張っていこうぜ!』
晃行は日焼けした顔をくしゃりと微笑ませながら言った。
『おう。今年こそは県大会ベスト4だからな』
晃行と初めて出会ったのは部活見学の初日だった。
お互いにサッカー部に入るのを決めていたのもあって、その場で意気投合して以来仲が良い。
『おはよう。今日のメニューは?』
そう言いながら部室に入ってきたのは高橋央明(ひろあき)だ。
央明は口数が少ない。また、感情を表情に表すことも滅多にない。聞き役に回ることが多いタイプ。
社交的な晃行も本音がなかなか見えない央明を苦手としているようだった。
その証拠に今日も央明に目配せをしただけで晃行はまた靴ひも結びを始めてしまった。
『今日から新しい顧問が来るらしいからな。まだ聞いてないんだ。ちょっと職員室行ってくるよ』
『あ、そうか。わかった、頼むわ』
その言葉を背に悠太は誰もいない運動場を横切って職員室へと向かった。
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