第一部 ヘンな顧問との出会い

6/14
前へ
/25ページ
次へ
運動場に新顧問が現れたのはそれから三十分ほどしてからだった。 『早く整列しろ!』 晃行が部員に声をかけ、素早く全員が運動場の一角に整列する。 規律を重んじ、礼儀を尊ぶ。 サッカー部の伝統だ。 晃行はそれを誰よりも真摯に受け止め、実行していた。 新顧問はやはりスーツだった。 運動場にスーツ。 誰が見ても不相応な取り合わせに思える構図。 『えーっと、今日からサッカー部の顧問をさせてもらう持田です。よろしく』 よろしくお願いします! 気合いが詰まった部員の返事が運動場中に響き渡る。 一体どんな指示が次に飛ぶのか、部員の緊張は高まる。 悠太も胸の鼓動の高まりを感じつつ、次の言葉を待った。 『えーと、まぁ楽しくやって下さい』 表情には出さないが、皆が『えっ?』と思っているのが雰囲気で伝わる。 持田はさらに続けた。 『あ、あと怪我には注意して。じゃあ私はこれで』 そう言うと、持田はくるりと踵を返して中庭の方へ歩いて行った。 持田の姿が見えなくなると、部員たちはひそひそと話し始めた。 『おい、なんだよ、楽しくって。俺たち小学生じゃないんだぜ』 『あれが顧問?どうすりゃいいんだよ』 『おい、静かに!』 晃行の一言でそれらの声は静まり返った。 『キャプテン、今日の練習メニューを頼む』 その声で悠太は我に返った。 自分も動揺していたことに、その時初めて気付いた。 『じゃあ、ランニングからだ。グラウンド五周して、終わったやつからパス回し』 悠太が言い終わると、視線が悠太に集中している。 いつものサッカー部の雰囲気が戻ってきた気がした。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加