第2章 追悼:捧ゲラレタ命

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モニターの中でリリーは落ち着いた様子で座っている。正座で両足を外へ崩したような形だ。 丈が異様に短くて青い無地のワンピースを着ている。わざとらしくツカサへ開口部を向けている。 彼女が落ち着いている理由はこれが訓練であったからだ。キャピーの内側に投影されている外の景色は、無数の小惑星が後ろに過ぎ去っていく。 「トレースリーダーより各機へ。状況報告」 右側に開いている通信画面を見る。 単純に飛んでいるだけとはいえ、小惑星を回避するため機体は上下左右に動いている。ただし今はオートパイロット。 「トレース2、コンディション、オールグリーンですわ」 シュル・ビットゥことシューは落ち着いている。 「トレース3。んも、問題ない、です」 ツィワン・ボースことツィーは緊張しているようだった。 「ツィー、緊張することないのですよ。だって、これはただの訓練ですし」 「だ、だって初めてだし……」 「ツィーは初めてなのか?」 ツカサが横から尋ねた。 「え、いや、シミュレーターも実機も経験はありますが、隊長に見てもらうのは初めてだから……」 「あっ、俺に、か。別にとって食べたりはしないさ。お前らしく飛べばいい」 「あっ、はい!」 ツィーはヘルメットの奥で頬を赤くして敬礼した。 「管制室よりトレースリーダーへ。訓練を開始してください」 僚機2人の通信画面を押しのけるようにして、ルカが映った画面が現れた。 「了解した。各機へ、オートパイロット解除。ポイントαツーの小惑星内部の洞窟へ侵入する。なお、俺より遅かったら失格だ。いいな」 「了解ですわ」 「りょ、リョウカイ」 モニターの右上に出ていた“オートパイロット”の赤い表示が消えた。右手の操縦桿に重みが加わる。 「行くぞ!」 左下でゆったりと浮かんでいる大きな小惑星に機首を向ける。 そしてスロットルを一気に押し上げる。 小惑星の洞窟の入り口は円形だった。飛び込む瞬間、キャノピーに投影された映像が赤外線映像に変わる。
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