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「どうやら営業してるみたいですね」
「だな」
入口に置かれた小さなカウンターの奥には、従業員と思しき若い女性の姿があった。
歳は20代後半――一之助とさほど変わらないように見える。
栗色のロングヘアーを後ろで1つに束ねた彼女は、特に何をしているわけでもなく、ただぼんやりとその場に立ち尽くしていた。
「あの、すみません」
かなりの距離まで近づいたが気づいてもらえず、一之助は静かに声をかけた。
はっとして顔を上げた彼女は、すぐに笑顔を作る。
「はい、いらっしゃいませ」
その胸もとには『よこや』と書かれた名札。
横谷紗英――彼女は事件現場に居合わせた5人のうちの1人だ。
「コースはお決まりですか?」
と、横谷がマッサージのメニューが書かれたプレートを差し出してくる。
昨夜彼女に事情聴取を行なったのが別の刑事であるためか、一之助と中里をお客と勘違いしているらしい。
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