刑事の章2

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ちらり、一之助は店内を窺った。 お世辞にも広いとは言い難いそこには、3本のベッド。 そしてそれらを区切るために置かれたパーテーションが2枚。 従業員の数は横谷の他に2名。 客の姿は今のところ見当たらない。 「いえ、我々はこういう者でして」 と、一之助と中里は懐から警察手帳を取り出す。 「最翁署の中里です」 「同じく、間宮です」 それを見た横谷の顔が途端に強張った。 「…どういった、ご用件でしょうか」 「鍋島さんはいらっしゃいますか?」 鍋島多香子――《kurari》の店長を務める女性で、横谷と同じく事件現場にいた5人のうちの1人である。 「本日鍋島はお休みをいただいておりますが…」 こちらが刑事とわかっても横谷は接客口調のままだが、そこには明らかな警戒と不安が窺えた。 「では林田さんは?」 林田真由――事件現場となった部屋の持ち主である彼女は、どうやらこの店の副店長らしい。
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