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「…横谷です」
事情聴取2人目として向かいのイスに座った彼女は、こちらに対して先程以上に警戒心を抱いているようだった。
「お忙しいところすみません」と軽く頭を下げる一之助。
しかし――
「協力をするよう副店長に言われましたから」
返される口調はどこか刺々しい。
「ご協力感謝しますよ、横谷紗英さん」
中里もまた、威圧を含んだ口調でそう返した。
相手によって態度を使い分けるのが、このベテラン刑事のやり方である。
「…それで、なにをお答えすれば良いんですか?」
「あなたの昨日1日の行動をもう一度確認させてもらおうと思いましてね」
「お話できることは全てしたはずですが」
「ええ。ですから“もう一度”」
「…私が、疑われてるんですか?」
「いいえ」と中里はかぶりを振って――
「我々はあなた方全員を疑っています」
きっぱりと言い放つ。
「自分で言うのもなんですが、刑事ってのは嫌な商売でしてねェ。目に映るもの全てを疑わないと真実に辿り着けんのですよ」
「私はオーナーを殺していません、殺すはずがない」
「そう言い切れる根拠は?」
「私はオーナーを心から尊敬しています」
答えになっていない答えを返されて、中里は半ば呆れたように「…そうですか」とだけ頷いた。
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