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アレ、ソレ、ジョナサン
ジョナサンの呼吸や瞳孔に、乱れは無い。
ただただ冷静に、動かなくなったタケダを、ジッと観察していた。
窓の向こうの工場から、始業のサイレンが鳴り響く。
そこでようやく、ジョナサンはタケダを仕留めたと確信した。
タケダは魔術師。
そう簡単に命を取れるとは思っていなかった。
手に握り締めていた、血まみれのボールペンを床に落とし、安堵の笑みを浮かべるジョナサン。
しかしその笑顔もすぐに消えた。
これはいわゆる“殺人”だ。
このままここに居れば、出勤してこないタケダを心配した同僚が、この部屋を訪れるだろう。
タケダのような魔術師が、普通に働かなくてはいけないこの国で、もし殺人罪で捕まるような事になれば、一体どうなる?
もしかしたら、故郷の家族…いや、報復に村ごと焼き払われるかもしれない…。
ジョナサンは、母が作ってくれたヤギ革のバッグを担ぎ、足早に部屋を出る。
『家ニ 帰リタイヨ』
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