Stage1

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「良いから。人は多い方が良い。やってもらいたいことがあるんだよ」  男は、ぶっきらぼうに言った。好い加減、傷口が痛んだ。着ていた軍服は、返り血と自分の血に染まっている。痺れ薬の影響も出ていた。気分は悪かった。 「何をやると言うのですか。そろそろ教えて貰いたい」  参謀が、男を見据える。周囲は、撤退準備が整い始めていた。東風が、煙を運び、炎を揺らす。 「カルーアを黙らせるんだ。兵士を沢山集めれば、ひとりくらいは、カルーアと話がまともにできる奴が居るんじゃないかとおもってさ」  男は、面倒そうに説明をして、身体を引きずるように衛生兵へと近寄る。衛生兵は、身体の痺れ以外の傷を、手早く治してくれた。  参謀が、後からやって来る。甲冑を付けているので、男には動きづらそうにしか見えない。名前までは男の記憶に無い。ただ、相談役の男としか認識が無かった。 「とにかく。早く此処を離れましょう。兵士の指揮は、総隊長に任せます。雪崩が来たら、どのみち殲滅します」  男は、燃え盛る炎を眺める。いつ見ても、炎は揺らめいていた。熱の浸透は早く、煙りは視界を曇らせる。微妙な空気の変化と刺激は、春の山では危険信号だった。
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