プロローグ

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 カリンが、ルティアナからトレイを受け取る。ルティアナが、鍵を開けた。部屋には内鍵も付いている。外側の鍵を外しただけでは開かない。 「さて、強行突破しますわ」  ルティアナが、息を吸い、気を集中させる。数秒の沈黙が降りた後、ルティアナの蹴りが、扉を破壊した。  ベッドの毛布に包まっていたアリトが、飛び起きる。怯えた眼差しがそこにあった。 「少しでも食べないと、赤ちゃんが死んでしまいますわ」  ルティアナが、部屋に入る。後ろから、カリンとサシャも続いた。 「死ねば良いのよ」  アリトが、単発的に言い放つ。 「何でそんなこと言うの?」  サシャが、間髪入れずに尋ねた。その声は俄に震える。サシャには、もしかしたら、腹に居るのは自分ではないかという不安と期待が渦巻いていた。然し、アリトはその気持ちを知らないらしい。 「生まないから。出ていって!」  アリトが、叫ぶ。混乱の中に居るのは彼女も同じなのだろう。凄まじい剣幕で、三人を睨みつけていた。 「生まない? ――駄目、それ、やだ! 絶対生んで!」  サシャが、アリトの言葉を反芻させ、思わず縋り付く。
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