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「貴方に指図される覚えはないわ! 離れなさい!」
完全に逆上したアリトが、サシャの手を放し突き飛ばす。床に尻餅を突いたサシャの肩を抱いてルティアナが、静かに言い返す。
「アリトさん。貴女、望んで結ばれたのではありませんの?」
「――知らない。うるさい!」
アリトが耳を塞いでうずくまる。身体が見える程震えていた。
「落ち着いてくださいませ。とにかく、もうできた命です。大切にして欲しいですわ」
カリンが、トレイをアリトから少し離れた場所に置く。まだ、動けるのだから、腹が空けば自分で手を出すだろうと考えたのだ。近くに置いても興奮したアリトでは、零してしまう。それでは後片付けも大変だという意味合いもなかったわけではないが。
「生んだって、あの人は帰ってこない。あの女は、死なない。一生、私たちを苦しめる――」
ベットで、アリトが顔を膝に伏せた。乱れた黒髪が、毛布にまで掛かる。
「まだ、決まってないよ。隊長さんが終わらせるんだから。だから、生んで? 私もそれまで側に居るから!」
立ち上がるサシャの悲痛な声が、部屋に響いていた。アリトは、顔を伏せたまま、三人を見ることはなかったという。
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