屁は臭い、だから面白い。

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  「変な名前だと思ったでしょ…?」 「…もしかしてそれ気にしてる?」 「うん…」 "うん…"は可愛い。 残念だがそこは認めよう。 しかし今まで散々明後日の方向に向かうファンタジーな名前を並べておいて今更すぎる、というのは俺でなくとも万人が共有することのできる感情だろう。 勿論それが本名に対する恥ずかしさからなのでは、という仮説をたてることもできている。 だが俺は敢えて口に出そう。 「あんなにぶっ飛んだ名前出された後じゃ、全く気にならないな」 「…そう?」 「そりゃそうだろう、本名が知れて良かったよ」 なんという紳士か。 我ながら素晴らしい対応だ。 素晴らしすぎて悪寒がする。 「…嬉しい」 「いい名前だと思うぞ?」 「本当…?」 「う、うん」 「…えへへ」 …なんだこれは。 これがあれか、恋は盲目というヤツなのか。 彼女だから光って見えるとかいうなんの根拠もない都市伝説みたいな現象を、まさに今体験しているのか。 ほほぅ…悪くないじゃないか。 「よし、惚れた」 「…え?」 「全て解決、無問題。やっぱり最良の選択になった」 「…?」 「…私が可愛くもじもじするとでも?」 「…なっ…」 また…負けた。 こんなに複雑で悔しい敗北が未だかつてあっただろうか、いやない。 「謀ったな…?」 「私は嘘をつかない主義だから」 「言ってることとやってることがこんなに綺麗に矛盾する人間はお前くらいだ!」 「矛盾してたのはさっきまでであって、惚れさせた段階で紛れもない真実になったでしょ?」 「…うっ…」 言い返せなかった…。 それが全てを表している。 「今日から二人でパラダイスね!」 ――こうして不思議な…いや奇妙過ぎる隣人(彼女)との壮絶な奮闘記が幕をあけたのだった―
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