生を欠ける少女

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           冷静になれ。冷静に。  そう、冷静に。  どうせゆく末は同じなのだから。  考えろ、考えるんだ。  そう、考えるんだ。  彼女だけは傷つけていけないのだから。             △▼  ――確か、ぼくたちは卒業旅行に伊豆へと向かっていたはずだ。ぼくも彼女も早々と東京の大学に進学を確定し、お互い上京後に住むところも押さえた。今まさに新年度が始まっても何の問題もないほどに準備を済ませていた。  そんな中で計画した旅行だった。  伊豆に行きたい、と初めに言ったのは彼女の方だった。文学部を志望していた彼女は、どうやら川端康成を尊敬しているらしい。これはぼく個人の勝手なイメージだが、女性が川端康成を嗜好するのは珍しいのではないだろうか。彼女を除いて、そのような女性をぼくは見たことがない。そしてかくいうぼくも、川端康成を読んだことがないのだ。  自殺したヤツの作品なんて読むもんじゃない。  これはいつだったか友人が言い放った科白だ。彼もぼくも理系であったが、どうしてか妙に納得した覚えがある。ああ、そうだ。あのときの彼の目は、ぼくの彼女のそれとまるっきり同じだったんだ。  それっきり、教科書以外で芥川や太宰を手に取ったことは勿論ない。
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