生を欠ける少女

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 さて、ぼくたちの旅行計画はお察しの通り、伊豆の踊子をなぞらえたものであった。どうやら彼女はずいぶんゆっくりしたいらしい。当初、宿を変えての二泊三日の温泉旅行を提案してきた。  しかし、どうだろう。彼女と二人っきりの旅行はそれはそれは楽しいに違いない。だけどもぼくとしては、それだけではちょっと物足りない。せっかくの伊豆だ。無理言ってもう一泊、海にも行くことを約束してくれた。  単純な下心だ。ぼくたちはまだ、いわゆる男女の交わりを経験したことがない。だから今回の旅行には相当の期待を込めていた。そうはいっても、彼女に限って何も起こらない可能性も否定できない。要するに保険だ。例え、ぼくの妄想が現実にならなくても、ぼくは下心をそれなりに満たすことができるのだ。  おかげで、五日後から始まる大学生活は、初っ端から慌ただしいものになるのだが。  やがて、どう転んだにせよ、彼女との卒業旅行は一抹の不安もなく、若い葉でこしらえた舟の浮かぶ小川がごとく穏やかに過ぎ去るはずだったのだ――       △▼  彼女――緑川瑞茶は、人の言うところいわゆる、世界に愛された女というやつである。  父親が地元の市長を勤めていて、見た目も実際もいいところのお嬢様。学校では性別問わず好かれ、また模範的で粗雑のない優等生。そして何よりも、瑞茶は美しかった。どこにいたって彼女はひときわ輝いているのだ。  全体的に丸みを帯びてふっくらとした容貌は健康的で、殊に朱に染まった両頬と、少し腫れたかのようになっている厚ぼったい上瞼に、ぼくは惹かれているのだった。  奇しくもぼくは彼女を思い出すときどうしてか、フラゴナールの『読書する娘』をそこに感じるのだった。  ……そろそろ落ち着いた頃だろうか。  本題に入ろう。  そんな彼女が、薄暗がりの中、裸に剥かれて床に寝そべっているのだ。
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