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「ふ、ふざけるのもいい加減にしろ!」
「ハハッ、フざけル? イい加減にすル? ナーに言ってるんすカ、マーだ自分の立場を弁えてないようですネッ!」
「いやっ……いやいやいやぁ……」
「どういうことだよ!」
「ダかラ、君たちの手足についているソレを考えたらどうだイ?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」
遂に発狂した。
経験上、彼女がこの状態に陥ったなら暫くは叫び続ける。そして、彼女が自分のそれを抑える常套手段は自傷行為。先に言った通り、ここ半年くらいは本当に落ち着いていたから目立たないが、それ以前は左手首に生々しい傷が絶えない日々が確かにあったのだ。
それにこの目だ。
先に彼女は世界に愛されていると言った。しかし、彼女の方は世界を愛していないのだ。
虚ろな眼差し。この瞳の中にある力強い闇が、かつて友人から感じたそれと悉く似通っていた。
出発前に爪を切らせておいてよかったと息を吐く。舌を噛みきらないとは言い切れないけど、少なくとも彼女は死を望んで自傷するわけではない。
ならば。
落ち着こう。冷静になれ。
なるべく早く、瑞茶を苦しみから救わなくてはならない。
目を瞑る。
――背景を、彼女の悲鳴が、滑ってゆく。
俺はエセピエロを見上げた。
「教えてくれよ。そのゲームのルールとやらを」
「フふふ、ヨうやく理解したようだネ。イいヨ、教えてあげル。――ルールは簡単さ。ドっちかがどっちかニ、死ねと一言いうだけでいイ」
「ああ……」
確かに極めて単純明快だ。けれどいつだって、単純明快の中に人間が介入したら複雑になる。
滝が降るようだ。彼女の慟哭は今や滝が岩を砕く勢いだ。
いいや、そんな程度じゃない。麗しい彼女の瞳からは、きっと滝のように涙が流れてるに違いない。
「タだネ、ソれじゃまるで早い者勝ちみたいになっちゃうよネ。ソこでダ、拒否する権利をあげよウ。モちろン、何回でもいイ。デね、結論が出たらサ……」
エセピエロは右手を背中に回した。
チラッと、黒いものが見える。
「バーン! 肉体的な終止符はあたし直々に打ってあげよウ」
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