第三章―柚香菊へ向かう道―

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「……何か?」 「蓮水ってさぁ、何者なんだ?ひょっとしてその若さで壱美より偉いのか?」 王家の事。 呪いの事。 全てを話すべきなのだろうが、今はまだ早い気がした。 だが仲間に加えた以上、嘘をつくわけにもいかない。 既に話をそらすにしては不釣り合いな程の間合いを取ってしまっている。 本当の事を話すべきなのだろうかと迷っている蓮水に代わり、壱美は堂々と真実を打ち明けた。 「蓮水様は、花幸祈国王様の御子息、つまり王位継承者だ」 神楽は驚き、目を丸くする。 「壱美!此処で全てを話すつもりか?」 彼女は表情も変えず、冷静に「はい」と頷いて、続けた。 「仲間に加える以上、蓮水様を御守りする為にこれは知っておかなければならない事なのです」 蓮水が、普通の王子とは違うのだと言う事を。   壱美が真剣な面持ちで話始めようとしたところを神楽は「ちょっと待った!」で止めた。 「何だ?何かあるのか?」 少し苛ついた感じで聞くと代わりに神楽は腹の音で返事をした。 あまりの豪快な音に、蓮水は堪えきれず笑い出す。 普段、城の中ではあまり笑う事のない彼が、こんな風に笑っているのを久しぶりに見た気がした。 こうしていると、普通の十五歳に感じられる。 呪われたが故に、早く大人にならなければならなかった蓮水。 何とかして呪いを解いてやりたい……。 神楽も笑いながら誤魔化し、蓮水とじゃれあっている。 もう打ち解けているのが、何だか堪らなく苛々した。 本来ならこんな男は、王子である彼の側に近付く事すら出来ないのに。 「もうずーっと飯を食ってないから腹が減りすぎて死にそう!!」 その図々しさに、壱美はまた腹がたつ。 突然仲間に加わったこの傍若無人な男を、壱美が良く思っていないのは解っていたが、蓮水は自分を特別視しない彼を気に入り始めていた。  
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