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やっと柚香菊に入る事が出来た頃には、日もすっかり落ちて夜になっていた。
この国の街は、一日中眠る事なく夜通し明るい。
毎日がお祭り騒ぎだ。
蓮水と神楽は歩く度に立ち止まり、商人の売り捌く本物かどうかも解らない物に、釘付けになっている。
「蓮水様。いい加減にしないと夜が明けてしまいますよ。我々は、観光に来たのではないのですから」
壱美はまるで母親の様に彼を叱る。
「……解っている」
蓮水が不貞腐れたまま、また一行が歩き出すと今度は食べ物が並ぶ通りに差し掛かった。
匂いにつられてふらふらと歩く二人を壱美は後ろからぐいぐい押していく。
「壱美ー!何処で飯を食うんだよー!」
痺れを切らした子供の様に騒ぐ神楽。
「腹が減っているのはお前だけではない。少し待て。この先に知り合いが経営している安宿がある。其処まで我慢しろ」
騒がしい街を抜ける為、三人は一列になり、狭い路地を歩く。
街から少し離れた所に『花壇』と書かれたネオンの看板を見付けた。
「シオンの奴……。目立たせるなとあれ程言ったのに」
壱美は何やら呟いて『花壇』の扉を力強く二回叩いた。
本物の扉の横に取り付けられた小窓から、銀髪に黒い布を巻いた、顔中傷だらけで髭面で、人相の悪い怪しげな男が顔を出す。
「……壱美か。遅かったな」
壱美はちらりと神楽を見て「色々あったんだ」と溜め息をついた。
「それよりお前、目立つ造りにするなとあれ程言っただろう。此処は昔から我が国の者達が極秘で泊まるための宿なんだぞ」
シオンと呼ばれる男は、くしゃくしゃの煙草を口にくわえながら一枚の紙を壱美に見せる。
――国王より通達
店を経営するものは、より明るい看板を付け店に客が入る様にする事。
守らない場合は、営業停止処分とする。
――以上。
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