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翼を休め、一人月の光をたのしむ者がいた。
ふわりと風が舞えば、それに合わせて髪も舞う。
心地よい。
こうすれば嫌なことはすべて忘れられた。醜い自分の姿を。愛されることなど決してなかった過去を。
「蒼藍」
不意に声をかけられ、身体が強張る。だが聞き慣れた声だと分かれば緊張は消えた。
「枢か…」
後ろを振り向かず名前だけを言う。枢と呼ばれた人は面白くなさそうに首を振った。
「何ですぐにわかるんだよ…」
「声と気配、か」
「気配なんてわかるわけ無いだろ?」
「そう思うか?」
と、否定しない答えを出す蒼藍に枢は諦めた。何を言ってもわかる、としか言わないのだろう。
「もういい。で、こんなところで何してるの?」
蒼藍に近づき、同じように月を眺めた。
黄金ではなく、淡く青白い光を放つ月を。
「…先のことをな」
「先?」
「ああ…」
哀しみを帯びた笑み。それをただ枢は見つめるしかなかった。
「…もう狩りには行ってきたのか?」
話題を変えようと身近なことをあげる。
しかしその題もどうかと考えるのが普通なのだが。
「ああ。歯応えの無いやつらばかりだ…」
「でもその方が俺としては嬉しい」
「…え?」
「歯応えがないやつらだったら、蒼藍がやられることはないしな」
と言った。自分としては少々面白くはないのだがこうも言われてしまっては仕方がない。
微かに笑うと頷いた。
「そうだな…今のままが幸せかもしれないな……」
「先生!!」
ばたばたと職員室めがけて走る。そして勢いよく扉を開ければ
「アレク君!!静かに開けなさい!!」
と、褐色肌の教師が怒鳴る。
彼はイツトリ。普段は穏和なのだが時には厳しい。学園内では人気者だ。
「ご、ごめんなさい!!」
頭を必死に下げて謝るアレクに赤髪の教師が近づく。
「まぁまぁ、急を要することがあって来たんだからさー、彼は」
煙草を吸いながら彼の頭をわしわしと撫でる。
グシオン。もっぱらナンパ男だと学園内で認知されているが詳しいことはわからないちょっと、いやかなり変わった男だ。
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