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「おや、お帰り」
眼鏡のズレを直し、帰ってきた者に声をかける。
読書中だったらしい、栞を挟み本を側に置く。
「シーン……」
「どうでした?久しぶりの外は」
薄ら笑みを浮かべながら彼に問う。
わかっているくせに、と言いたくなるほど、彼は胸中を知り尽くしているはすだ。
「まあいいですよ。…で、何か収穫はありましたか?でなければそんな嬉しそうな顔をしているはずがありませんからね」
自分がそんな顔をしているなどと初めてわかった。彼はよく人を見ている。
「知人に逢いました。ただ、昔のような誇り高き騎士ではありませんでしたが」
それを聞いてシーンは笑った。
「平和な世界は人を怠けさせる。彼もその一人ですね……」
椅子から立ち上がるとそのまま歩き、広間をあとにした。
「平和、か」
「だーかーら、兄さんは黙って待っててよ!!」
グッと詰めより蒼藍の胸ぐらをつかむ。
苦しそうに蒼藍は呻いた。このままでは本当にヤバイかもしれないと。
「わ、わかったから離し……」
「いーや、絶対わかってないね!!何で一人でいこうとするんだよ!!」
なおも締め上げるそれに蒼藍は思わず声をあげた。
その声に驚き、瑠璃も慌ててようやく手を離した。
空気が喉に入り咳き込む。
呼吸をなんとか整え、話を戻した。
「ただ見に行くだけだ。それぐらいどうということはない」
「だからそれが怖いんだって!!もし雷獣に見つかったらどうすんだよ!!」
雷獣。ここ最近森林地帯の方で見慣れない黄色い毛並みを持つ獣を見かけるようになったという。
野生のものだろうか。人には手を出さないのだが敵と認識すれば即襲いかかるという、ある意味獰猛な獣だ。
おまけに兄弟はその獣に思い当たる節があるのだ。
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