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「良いのかい?」
公園を出たところで光太郎に掛かる声があった。
「滝川さんか」
振り返ると、そこには滝川が棒立ちしていた。
「今なら弁解すれば間に合うんじゃないか?」
「そんな事をしたら……〝創造の化身〟の役割が意味をなさないだろ」
光太郎の役目はあくまで物語を正しく導く為であって破壊する事ではない。
口にしないだけで沙姫の精神が不安定なのは分かっている。
かといってミクトリアンの存在を明らかにしては只でさえ朔の件で危ない橋を渡っているのに、これ以上にチェルノボーグの存在を明るみにはできやしない。
ならば真実をボヤかせば良い話ではと思えるが、そうもいくまい。
リーヴスやラシルの協力から怪しまれる可能性が濃厚だったからだ。
沙姫を起こすには不確定な要素ではいけないという部分も含まれていた。
それではどうするのかーー身近な存在が敵だと植え付けてやれば目を覚ます確率は高い。
それにあの現場を見た沙姫は納得してくれる。
彼女の怒りの矛先を自分へ向ければ私怨というものではあるが、生きる目的を見付けてくれた。
あとは彼女の精神が安定するまで近くで見守り続け……時期を見て『この世界』から去れば良い。
所詮は招かれざる存在なのだから。
「何でそこまでするんだ?」
「さてな。何でだろ?」
滝川の問いに対する明確な答えなどない。
光太郎は滝川に背を向けて帰路に着くのだった。
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