放課後

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剣道部はやる気がない部活に分類される為に部員はほぼ全員帰ってしまっている。ほぼというのは一人帰ってない、まあ、あの一人で素振りをしている汗臭い男子のことだ。 部員がいる間も、部員が帰った後もああしているのだから、ご苦労様としか言えない。 アッチは素振りに集中していて此方に気付いておらず、声をかけなければ暫く気付かないだろう。 最初の頃は迷わずに声をかけたが、今は素振りが終わるまで少し待つことにしている。 時間としては十分もしないだろうけど、退屈な時間というやつはどうしようもない位にゆっくりと流れて行く。 男子の素振りに見惚れでもすればあっという間なのだろうが、男子の素振りは私には速すぎてよく見えない。 まあ、なんというか、よく分からないが、いつもと違って真剣な姿は……取り合えず……あれだ……うん。 「よ~」 へっ? 「幽霊かと思ったら死にかけか」 退屈だった時間があっという間に過ぎたようだ。さっきまで素振りをしていた男子が目の前にいた。 「それを言うなら死人(しびと)でしょ」 「なに言ってんだ?」 まっ、まずい。ちょっと焦ってとんちんかんなことを。おっ、落ち着かないと。 「ごほっ! ごほっ! ごほっ!」 「急にわざとらしい咳なんてしてどうした」 「ふ~、落ち着いた」 「そこは深呼吸じゃ駄目か?」 「深呼吸ってやったことないのよ」 「つまり深呼吸するタイミングでずっと咳をしてきたのか?」 「落ち着きたい時はずっと咳してたわ」 「色々間違ってるぞ」 「そうね……落ち着きたい為とはいえ咳をしないことに越したことはないものね」 「取り合えずその発言が間違ってる」 冷めた身体を会話で暖めた後、男子が着替えた後に揃って下校した。 勘違いして欲しくないので一応言っておくと私は男子を待っていた訳ではない。ただ習慣で本を読み、帰る時にたまたま剣道場を通っただけだ……なんだその目は!? 「ごほっ! ごほっ! ごほっ!」 「何を急に慌てることがある?」 「貴方の酸っぱい匂いが鼻孔を激しく刺激しただけよ」 「激が二つ入ってるぞ」 私にとって放課後は廃墟。嘗ての栄光を懐かしみ、遠くの繁栄を眺めるだけの孤独な存在。 ……だけど、貴方の隣にいると……その廃墟に再生の希望を感じてしまう。 なんて残酷なこと……貴方には絶対に言わないけど。 朝には拷問のようだった道程も、そんなに辛くなかった。
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