たぬの恩返し

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 1960年代のある田舎町での出来事である。    Mは老いた母親とトタン屋根の下で二人暮しであった。家の目前には鉄道があった。Mは汽車が通るたびに石を投げつけた。 「俺のように、転げ落ちれ。」  だが投げつける石は小さかった。Mの心持ちの様に。Mはだんだんと虚しくなってきたか、畑をする母を横目で見ながら家に入って行った。  Mは生来怠け者であったから、布団に寝そべって、母の鍬のたてることん、ことん、という音を聞きながら、うつらうつらとまどろんだ。 「よい。起きろ」 声がしたのでMは薄目を開けた。 「なんじゃい。わ、だれじゃい!?」 Mの目の前にたぬきが座って居た。 「我輩はたぬきである。名前はまだない、なんてな、はっは」
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