桃を拾う

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桃を拾う

 その日、女は川へ洗濯に来ていた。  夫は山へ柴を苅りに出かけていたため、女は家の事を片づけてしまう事にし、手始めに洗濯をしに来ていたのである。  風は心地よさに溢れてそよそよと吹き抜け、雲一つない空は青々と拡がっている。それらが朗らかな陽光とあいまって、まさに洗濯日和と云える天気であった。 「ん?」  何か気配を感じた女が、ふと見やると、上流から桃が流れて来ている事に気付いた。 「…でか!」  桃は一抱えもありそうな程、巨大であった。  ハタと何かに思い到り、女は洗濯の手を止め、身構える。  次の瞬間、女の目がスッと細まったかと思うと、 「ちぇすとおぉぉっ!」  気合いと共に手刀を水面に叩き込む。  と、余りの衝撃に川は二つに分かれ、流れていた桃は動きを止めた。  数分後、洗濯を終えた女は、盥に桃を乗せて悠然として帰途へついた。
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