1人が本棚に入れています
本棚に追加
桃を拾う
その日、女は川へ洗濯に来ていた。
夫は山へ柴を苅りに出かけていたため、女は家の事を片づけてしまう事にし、手始めに洗濯をしに来ていたのである。
風は心地よさに溢れてそよそよと吹き抜け、雲一つない空は青々と拡がっている。それらが朗らかな陽光とあいまって、まさに洗濯日和と云える天気であった。
「ん?」
何か気配を感じた女が、ふと見やると、上流から桃が流れて来ている事に気付いた。
「…でか!」
桃は一抱えもありそうな程、巨大であった。
ハタと何かに思い到り、女は洗濯の手を止め、身構える。
次の瞬間、女の目がスッと細まったかと思うと、
「ちぇすとおぉぉっ!」
気合いと共に手刀を水面に叩き込む。
と、余りの衝撃に川は二つに分かれ、流れていた桃は動きを止めた。
数分後、洗濯を終えた女は、盥に桃を乗せて悠然として帰途へついた。
最初のコメントを投稿しよう!